Experience
「ひと」から学ぶ、体験
紀の川市で進化する伝統工芸士。それが「家具のあづま」の5代目・東福太郎さん。変化を恐れずに新しいものを取り入れ、その本質を守り続けて進化。過去の技術と美意識を尊重しながらも、現代のニーズに応え、未来へと繋げる…その挑戦の一端に触れる旅です。

家具のあづま
AZUMA Furniture
新たな価値で進化と革新。世界から脚光を浴びる桐プロダクト
始まりは明治24年。山と深く関わる林業から始まり、自然と共生しながら知識と経験を積み上げて、代々引き継がれてきました。「家具のあづま」として始動したのは4代目。林業に加え、木の国・和歌山を代表する桐箪笥も手掛け、素材の特性を熟知しつつ、伝統技術と技法を継承。5代目として東福太郎さんもそのDNAを受け継ぎ、現代の機械では再現できない伝統工芸の繊細さや奥深さをとことん追求。伝統的な技法に新たな価値を生み出し革新をもたらす気鋭の伝統工芸士として、さまざまな業界から脚光を浴びています。
ハイブランドと呼ばれる世界の一流メーカーとのコラボ。そのきっかけとなった作品が「桐のグラス」です。業界をざわつかせたのは、桐では不可能と思われていた薄さと軽さ。約1㎜の飲み口は驚異の薄さであり、仕上げは伝統技法に独創性を加えた塗り。さらにユーザーの心を捉えたのはそのストーリー性。桐は霊鳥・鳳凰が寝床とする縁起の良い神木であり、何度も蘇る鳳凰のように桐箪笥業界を復活させると表明した上で、形にもこだわりました。「桐のロックグラス」は起き上がりこぼしの要領で倒しても自力で元に戻ります。まさに七転び八起き。勇気の器です。また「桐のビア杯」においては、この高度な技術と発想が未来のモノづくりを支えるとして、2017年の「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」おいてスーパーバイザー・小山薫堂氏より「注目の匠」にも選ばれた実績を持っています。
モットーは「一に材料、二に仕事」。真っ直ぐな木目で、ひずみの少ない柾(まさ)と呼ばれる最高級の桐材を用い、日本が誇る伝統工芸の技と、あづまが独自に編み出した特殊な加工技術で、子々孫々に渡って思いを繋ぐ桐箪笥を生み出しています。桐箪笥は、昔から衣装と財産の保管に優れ、火災や水害からも「身を挺して中身を守り抜く」といわれる逸品。伝統的な嫁入り道具の一つです。生活環境の変化などから業界の疲弊を感じつつも東さんは「桐の魅力を伝えたい」と、日々奮闘。伝統工芸の歴史と匠としての経験を土台に、立ち止まることなく進化しています。その進化系の一つが、多様性のある現代人のファッションを守る桐箪笥ブランド「SAMA」。設置する場所や用途に応じて思い通りの組み合わせができるデザインを採用し、組み上がったビジュアルは近代建築のよう。デザインは古びることなく、例え傷んだとしても「洗い替え」という手法で蘇り、次代へと受け継がれるサステナブルなプロダクト。これからの時代に必要不可欠な融合を見せてくれます。


過去の技術や美意識を尊重しながら未来へと繋げる挑戦
「伝統工芸とは、過去 にしがみついたものではなく、進化していくもの」。そう語る東さんは、何百年後かの伝統工芸の道しるべとなるために、究極の手技と究極のデジタルを融合。粗どりなどAIでできる技術と、調整・仕上げなど職人にしかできない技術、その両方を駆使しながら、伝統工芸の全てを商品に込めて作り上げています。さらに日本の誇るべき技術を後世に残すため、男女の性別に関係なく職人が現場の第一線で活躍。先人から受け取ったバトンを、未来に繋ぐために…これからも桐の木と向き合い、進化し続けています。
1981年生まれ。桐の材木屋に生まれ、祖父と父の背中を見て育ち、世界一の桐箪笥職人を目指して伝統工芸の道へ。京指物の伝統技術を学び、人間国宝・黒田辰秋の右腕である名工・内藤郁夫に師事。祖父や父を含めた優れた匠から多くの知見を受け継ぎ、新たな伝統の担い手として活躍の幅を広げながら、日本にとどまらず世界へと躍進を続けています。
家具のあづま
住所 和歌山県紀の川市名手市場1169-1
